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証人尋問で明らかとなった「望む結果からの逆算」で導いた安全率

幸福の科学学園関西校の校舎棟・寄宿舎棟の除去・使用停止等の義務付けを求める訴訟は、2016年9月26日と10月13日に証人・原告尋問の日を迎えました。 この尋問は、裁判所が判決に大きく関わる論点を専門家らに直接確認するという目的で行われました。特に地盤安全性の論点では、 大津市が主張の最後の砦とした意見書を書いた専門家に対して直接質疑できる場が得られたため注目されていましたが、 結果は望む結果からの逆算を意図したために根拠に乏しい前提で地盤安全率の計算がなされていたことが明らかとなりました。 その後、2016年12月22日の公判で結審、2017年3月23日に判決が下される事が決まりました。

大津市の姿勢は「自身の調査結果は間違い」「専門家意見書こそ正しい」

証人尋問に向かう転機となった出来事として、大津地裁が下した文書提出命令で、学園用地に対して大津市が行った大規模盛土造成地に対する調査結果が公表されたことがありました。 その結果には学園用地の地盤の安全率は、原告側の土木専門家が提出した地盤安全率とほぼ同じ、大津市の都市計画部長の発言に照らすと「既に滑っている」とされた数値が記されていました。

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学園用地の“地盤安全率”が明らかに。黒塗りの下は「既に滑っている」とされた数値。

この結果公表の後から、大津市は自らの調査で導かれた結果について 「間違っている」 と主張し始め、専門家意見書で算出された安全率こそが正しいと主張を変えていました。このような経緯があり、尋問では専門家意見書で安全という結論を導いた主張の妥当性について徹底的な追及が行われました。

乙24号証の主張(抜粋)

※乙24号証より抜粋。大津市専門家が導出した粘着力では、安全率は1.437と主張。

大津市専門家の意見書では自ら円弧滑り計算を行い安全率を評価

大津市側の専門家は、意見書(乙24号証)の中で自らが円弧すべり計算で安全率評価を行った結果、通常時の安全率が設計基準である1.5を超えるという結論を導くとともに、原告側専門家の計算に対して「土質物性値」「地盤強度設定」に誤りがあるために 安全率が低く算出されていると指摘していました。

乙24号証で説明された地盤の安全率計算の方法は下記のとおりでした。

土粒子比重を2.67と仮定し,含水比50%,飽和度80%と設定すると、
飽和単位体積重量 γsat=1.715tf/m3(=18.18kN/m3)
湿潤単位体積重量 γsat=1.600tf/m3(=15.69kN/m3)
が得られるので、これを円弧すべり計算に用いる。

上記を前提として、更に学園用地での測定から得られているN値より算出した粘着力(70kN/m2)を用いると、 計算の結果は、表11のように地下水面、上載荷重というパラメータを振っても、いずれも通常時の安全率が設計基準の1.5を超えるという主張でした。

円弧すべり計算の計算ケース

円弧すべり計算

※乙24号証の図10、表11に加筆。

原告弁護士による大津市専門家への徹底追及。

このような乙24号証での主張に対し、原告弁護士が直接大津市専門家に尋問を行い、計算の根拠が追求されました。 主な論点として質問されたのは、下記の3点でした。

@なぜ含水比=50%で計算したのか? 現地計測では30%程度ではないのか?

Aなぜ飽和度=80%で計算したのか?
 現地計測で95%程度という数字が出ているのではないのか?

Bなぜ、粘着力はN値平均から算出した70kN/m2を使うのか。
 現地データがあるにも関わらず使わず、違う土質データから粘着力を導くのは何故か?

写真

※甲131号証より(乙24号証・表9に記載の含水比、飽和度の数値を測定地点に追記)

以降に、原告弁護士("原告"と表記)と大津市側専門家("被告"と表記)の質疑を裁判所作成の調書より引用します。 全般的には、根拠に乏しい被告の説明が続く結果となりました。

尋問@ : 含水比の謎 (なぜ30%が50%で計算できるのか?)

「含水比」というパラメータについては、清水建設が学園建設時に調査したデータの中に、乙24号証・表9にもあるような「27.5」と「31.4」という数字があるにも関わらず、50という数字が用いられていることについて、根拠を問うものでした。

写真

[引用 : 調書46ページ6行目より引用]
 原告 : 意見書の26ページ、含水率について、あなたは、地盤調査の結果では含水率が
    30から40となっていると、こうなっていますが、一体どの調査結果を見られた
    んですか。
 被告 : 今回、これは基本的には、何て言いますか、33ページに一覧表をまとめて
    おります。このうちKA-7-1と、RA-2-1、この2つの含水比が31.4と27.5と
    なっていますので、これは採用してます。

 原告 : 30から40になっていないですよ。そうすると、先生、今、27.5と31.4と
    おっしゃった。

 被告 : はい。
 原告 : 40はどこ。
 被告 : いえいえ、ほかに粘性土のところでもありますけど、少し大きな幅を持たせたと。
 原告 : 分かりました。じゃあ、表9の…。
 被告 : 原告さんが金曜日に出した報告書を見せてもらえますか。
 原告 : 大体分かりました、今ので。33ページの27.5という数字、31.4という数字を
    見て、ある程度の幅を持たせて、30から40。

 被告 : そうです。

[引用 : 調書47ページ26行目より引用]
 原告 : それから、円弧すべり計算による安定性評価、40ページですが、40ページでは、
    含水比は50%で計算していらっしゃるんですね。
 被告 : はい。
 原告 : この根拠は何ですか。
 被告 : 後でクレーム出んように、少し重ためになるように…。まあ、この飽和単位
    体積重量と飽和度と、全体の湿潤体積重量なんかを見比べて、これぐらいが
    ちょうどだろうという形を使っております。

 原告 : 全く理解できないんですけど、さっきの33ページの表9では、KA-7とRA-2で、
    実際、31.4と27.5って、ほぼ30なんですよね、どちらも。それなのに50%。

    こんなに大きな数字を使う理由が私には分からない。
 被告 : ちょっと重たくしようと思っただけです。安全側になるように。

尋問からは、30が40、40が50へと値が変えられていく様子が浮き彫りとなりました。 そして、50に近づけた理由が、安全側になるように値を調節した結果だと説明したのです。

そして、安全側になるように数値を調整したのは、後でクレームにならないようにする意図であることまで説明したのですが、 いったい誰のクレームを気にしたのでしょうか。

安全な数値を意識して結果から逆算した含水率=50%という数字にどのような意味があったのか疑問の残る証言となった感は否めませんでした。

尋問A : 飽和度の謎 (なぜ95%程度が80%で計算できるのか?)


次の「飽和度」というパラメータについても、乙24号証・表9に記された清水建設が学園建設時に調査したデータの中に、「99.6」「96.3」という数字があるにも関わらず、80%という数字が用いられていることについて、根拠を問う尋問が行われました。

[引用 : 調書46ページ24行目より引用]
 原告 : 26ページで飽和度について書いておられて、100%の飽和度であればこれこれと
    なるし、飽和度95%程度であればこれこれとなると、数字を書いていただいて
    ますよね。
 被告 : はい。
 原告 : ところで、今見ていただいた33ページの表9、ここには99.6と96.3と具体的な
    数字があるんですけども、これについて、なんで26ページで検討の対象に
    しないんですか。
 被告 : これは、土質試験2つだけなのと、基本的にはボーリングの結果で、ボーリングの
    泥水位がすっと抜けたりするということは、土の間に空隙がそれなりにあると。
    そういうことで、実際に、どちらかというと、私が想定、こういうほうが
    いいだろうというのを、エンジニアリングジャッジメントで採用していると、
    こういうことです。

 原告 : ということは、現実のところでは99.6、98.6、96.3、99.6、これは結果的には
    無視されることになるわけですよね。


ここでは「エンジニアリングジャッジメント」という言葉でパラメータ決定の正しさを証言しています。 しかし、よく考えると、この発言は「私は専門家なので、私の経験に基づく説明は信用に足りる」と主張しただけであって、 客観的根拠に基づいた論理的な説明ではありません。このような発言は、事実認否を争う裁判での証言としては全く不適切で、その信用性は全く無いと言わざるを得ないのではなかったでしょうか。

[引用 : 調書49ページ20行目から50ページ20行目より引用]
 原告 : 26ページでは、地盤調査結果の数値を前提に、飽和土なら1.8から1.92tf/m3、
    飽和度95なら1.78から1.90tf/m3、 こういうふうに先生は書いておられたん
    です。ところが40ページで、これから計算をしてみますよという段になると、
    飽和単位体積重量が、このどちらでもない1.715というのが出てきまして、かつ、
    飽和度も、80というのが突然出てきて、 で、1.6という計算、計算は合って
    いるんですけど、こういうことを急に前提にされるものですから、一体こういう
    前提が何で出てきたのか、私は分からないと言って聞いているんです。
 裁判長 : どうですか。
 被告 : 次の表-11の計算ケースを見てもらったらいいんですが、この計算をするに
    つけて、ケース1が、原告専門家が計算された結果です。 で、飽和単位体積重量
    が、私はこれは大きいと思っていますよというので、それよりも小さいものを
    想定するために、 今、言いました、土粒子を2.67、含水比を50、飽和度を80%
    で算出すると、1.715になります。これがここの証に当たります。
    それで計算したと。だから、それだけですよ。
 原告 : 飽和度80%として計算してらっしゃいますよね。
 被告 : はい。
 原告 : ところが、もう何遍も見てもらってるけど、33ページの表-9では、
    KA-7が99.6、RA-2は96.3でしょう。

 被告 : はい。
 原告 : 何で80なんて小さい数字を使うんですか。
 被告 : この2つは、試料を取りやすいところで採れている可能性が高い。ということは
    軟らかい。 軟らかいと水をたっぷり含んでいるということがありますんで、
    私は、全体を見るのに、もう少し飽和度は低いだろうと、 こういうふうに
    考えてしたということです。

 原告 : あなたの推論は、私には全く理解できません。

さらに続いた尋問に対しては、裁判長が原告専門家の質問に相槌を打つかのように大津市専門家の答えを待つやり取りがありました。 しかし、ここでも根拠を示すことができず、「このように考えたので、このようになりました」という趣旨の説明の域を出ることができませんでした。

尋問B : 粘着力の謎 (現地データが何故使えないのか?)

大津市専門家意見書では、現地土質でないグラフ(乙24号証・図8)を持ち出し、それに自らが算出したN値(乙24号証・表10)を適用することで粘着力を導いていました。

学園用地に対する標準貫入試験結果によるN値一覧

※乙24号証・表10より。粘着力計算の前提となるN値は平均値として算出されている。

粘着力の導出に用いたグラフ

※乙24号証・図8より。N値より粘着力を読み取るために用いられたグラフ。

しかし、地滑りは一般的に弱い地点の地盤から谷筋に引っ張られて発生することが知られている中で、なぜN値の平均を取って粘着力を算出したのか、 更には、現地データがあるのにあえて使わず、違う土質データから粘着力を導いた理由について尋問が行われました。

[引用 : 調書52ページ20行目から53ページ17行目より引用]
 原告 : 粘着力について、70くらいは期待できるんだというお話ですよね。
 被告 : はい。
 原告 : その理由は何やと言ったら、あのグラフから読み取るわけですよね。
 被告 : はい。
 原告 : よく分からないのですが、あのグラフというのは先生が書いていらっしゃる
     乙24号証の36ページの、この図-8、N値とquの関係。まず、そもそも大前提
     として、このグラフは、この上のところの、ト書きというか凡例にもある
     ように、沖積粘性土とか洪積粘性土とか、それも、港湾地域、内陸部とかって
     いう項目、こういうふうに、ある一定のところの地層を前提に測っているん
     じゃないかと思うんですよね。
ところが、本件は盛土で、先ほど先生も言われた
     ように、どこからか切ってきた、そういうようなものを、ここで締め固めている
     わけですよね。そういうところに、そもそも外挿すること自体、合理性が無いと
     思うんですけど、そんなことはないですか。

 被告 : 現実には、N値しか取れていない場合は、そういう方法で推定しております。
     おおきく間違っているとは思っていません。
 原告 : それは確かに、全く、供試体がないとかいうんだったら、それしか手法がない
     というのはわかるんだけれども、本件であれば、明らかに供試体がちゃんと
     あって、そこで数値出てるでしょう。で、その数値と、あなたがおっしゃる
     粘着力というのは、大きく違いますよね。

 被告 : はい。
 原告 : だから、そんな外挿というのは合理性がないんじゃないかと思って聞くんですが、
    どうですか。
 被告 : 私は、試験個数が2個しかないということのほうが、恐ろしくて、そういう数値を
    よう使わないだけです。


違う土質のグラフを持ち出す事の妥当性については、現地で取得した供試体が使えない理由に比べて圧倒的に説得力に乏しく、 もはや感覚論で議論しているような尋問でした。この背景には、やはり「結果からの安全率の逆算」が頭に残っていた事が窺い知れました。

[引用 : 調書53ページ18行目から54ページ11行目より引用]
 原告 : 図-8のN値とquの関係をみますと、なかなかこれ、5.4というところがどこなのか
     分かりにくいのですが、大体、4と6の間のところを見ますと、黒のぽちが100の
     ところに付いているでしょう。N値が、4と6のちょうど真ん中あたりをずっと
     たどっていくと、黒のぽちの一番下をみると100ちょっと超えたぐらいのところ。
 被告 : 私はこの真ん中にある、この2つの破線がありますけど、この破線の大体下側を
    取っています。
 原告 : だから、下側を取られるのいいんだけれども、現実に100というところにもぽち
     があるじゃないですかということを、その真ん中の下側の線をとってますという
     ことの合理性もよく分からないんですよ。何でこの下の線を取るんですか。
 被告 : いや、安全に、安全というか、むしろ多少危険でもいいという形で、危険なほうを
    取っているというふうに理解してください。
 原告 : それだったら、現実の数字が39.9なんだから、安全を取って39.9、あるいは、
    46.7でやるべきじゃないですか。
 被告 : そしたら現実、ちゃんと安定して持っているという斜面の説明が、全くできま
     せん。計算結果が、今にも壊れても、おかしくないという計算結果になっている
     んで、私はそんな計算を、とても信用する気になれない。


現地のパラメータを使えない理由を問われたところ、遂に最後には「(それを使うと)今にも壊れても、おかしくないという計算結果になっている」と認めてしまっています。 このように発言を見ていくと、端々で「望む結果からの逆算」で導いたことを自ら述べる形の尋問であったことが印象付けられる結果となりました。

「望む結果からの逆算」であることを自ら述べた証言の信用性は如何に。

原告弁護士による大津市側専門家への尋問の様子を裁判所作成の調書から引用しましたが、全体的に極めて根拠に乏しい答弁に終始した印象が残った尋問となりました。 しかし、専門家として安全率を計算した訳ですから、客観的根拠に基づいた論理的な説明ができていない事は致命的ではなかったでしょうか。 大津市側の専門家は「私は専門家なので、私の経験に基づく説明は信用に足りる」と強弁しただけであって、 客観的根拠に基づかない反論は裁判上の証言としての信用性は全く無いと言えるでしょう。

大津市専門家の意見書は大津市にとって最後の砦でしたが、その主張は原告側弁護士の反対尋問を通じて真っ向から否定された情勢となりました。 これでは大津市が安全だという根拠は、もうどこにも無くなってしまった、と言わざるを得ません。

最後に、地震時の安全率についての尋問を紹介します。

[引用 : 調書56ページ5行目から15行目より引用]
 原告 : あなたのほうで、ケース1からケース5ということで、計算し直していただいてい
    るんですよね。これは常時の安全率を計算されているということですかね。
 被告 : (うなずく)
 原告 : 安全率を測るときは、地震時の安全率1.0というのを満たしているかどうかという
    のも、非常に重要な問題だと思うんですが、これについてはあなたは、ケース1
    から5で計算しておられますか。
 被告 : 計算していません
 原告 : なぜですか。
 被告 : これが造成されたときに、地震時の安定性を検討しろというような基準は、
    どこにもありません。したがって、今回問題になっているところで、地震時の
    計算をする必要はないと考えたんです。


原告弁護士からは、地震時の安全率を計算しなかった理由が問われました。この背景には、下図の文書提出命令の末に開示された文書には「常時」の他に、災害時を想定して計算を行う「地震時」の欄があり、大津市の調査結果には「0.386」という極めて危険な値が記されていたためです。

ところが、大津市側の専門家は、地震時の安全率計算を行うことを義務付けられていないという理由をこじつけ、依頼主である大津市が「間違っている」としたこの計算の検討を避けた形となりました。

[開示文書:二次元安定計算結果]
文書提出命令公開文書(解説付き)

しかし、ここで反論を行わなかったことは、幸福の科学学園・関西校の設置を審査した滋賀県・私学審議会で「地盤は安全」と結論付けた判断をも揺るがす事であることを忘れてはなりません。 その理由は、当時の私学審議会の議事録を紐解くと、学園用地の地盤の安全性の議論は学園建築に纏わる裁判の経過を引用して安全と結論付ける事で学校設置の認可が適当とする判断がなされていたためです。

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滋賀県・私学審議会議事録
問題点D: 地盤不安は実質議論せず。訴訟文書の解釈は事務局が都合よく説明。

しかし、直近の尋問を通じては、学校教育法を根拠法令とする下記の安全基準の要件について、非常に不安があると言わざるを得ません。

[引用 : 滋賀県私立高等学校/中学校の設置認可等に関する審査基準]
 高等学校/中学校の位置は、教育上および安全上適切な環境にあること。
 (1)崖崩れ等自然災害に対して安全であること。
  (http://www.pref.shiga.lg.jp/data/kijun/shinsa/1ba00301.html より引用)

このような中で地裁判決がどうなるか、判決に学園用地への是正策がどのように反映されるかが注目されます。

建築確認の取消しを求める訴状の徹底解説 審査請求棄却の経緯を議事録から詳細解説