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訴状で主張された『形質の変更』の解釈は? 学園建築確認に対する開発該当性の検討(1)


幸福の科学学園の校舎棟・寄宿舎棟に対する建築確認取り消しを求めた訴状は、
『形質の変更』と呼ばれる観点での開発該当性に対して、深く切り込んだ内容が争点とされています。

今回は、開発行為への該当・非該当の判断が「どのような基準で行われるのか」という点を示しながら、
訴状での原告の主張の分析を行います。

※注 : 以降の説明は、滋賀県大津市における開発許可の判断基準を前提とした説明です。

前大津市長による回答文書によれば「大津市開発許可の取扱基準」に定める開発行為に明らかに抵触

訴状によれば、原告らは大津市が独自に定めた「大津市開発許可の取扱基準」の条文に記された「土砂の
搬入出のない地均し程度の行為(切土または盛土高が0.5m以内)」という基準を超えた規模の工事計画が
『形の変更』にあたる
ため、土地の開発行為に該当する(以降、「開発該当」と記す)と主張しています。

また、切土が0.5m以上存在する根拠として、原告は下記の2点を主張しています。

・幸福の科学学園、清水建設が都市計画法施行規則60条に基づく証明書を受ける際に、
 建築計画上「0.5メートル以上の切土・盛土」の改変行為を行う区域を自ら図示して届け出を行っていること。

・本件の建築確認取り消請求を審査した大津市建築審査会が、当時の大津市長に求めた判断根拠の文書には、
 開発非該当の根拠として、大津市自らが最大切土高さは、学園用地は1.8m、寄宿舎用地は0.92mと記していること。
 (下記資料2ページ目の「最大切土高さ」に対する記述を参照)

審査請求に伴う開発許可不要の見解について(回答)






「形状の変更」への該当・非該当の判断基準は、『大津市開発許可の取扱基準』という文書で明文化。

では、原告らの主張の妥当性をどのように判断したらよいのでしょうか?

厳密には、本件は提訴されていますので、裁判官が審理を経て判決として判断することになりますが、
当ホームページにおいても検証を行っていくことにします。

まず、開発行為、特に『形の変更』の定義から見ていきます。
「開発行為」については、大津市が土地工事に対する開発該当・非該当の判断基準を定めて公開している
「大津市開発許可の取扱基準」(平成23年4月改正)という文書の中で、下記のように定義されています。

[ 大津市開発許可の取扱基準 5ページ 第2章 開発行為 I 開発行為より抜粋]
 1.開発行為
  開発行為とは、「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の
  区画形質の変更」をいい、下記のいずれかの行為に該当するものをいう。

  (2)形(形状)の変更を行うこと

[ 大津市開発許可の取扱基準 5-6ページ 第2章 開発行為 I 開発行為より抜粋]
 3.形(形状)の変更
  形の変更とは、切土、盛土および整地によって、土地の形状を物理的に変更することを言う。
  (1)建築物(特定工作物の建設を含む)の建築を目的として、土地を切、盛土するとき。(形体の変更)
    ただし次のような場合は、形質の変更に該当しないものとして取り扱う。

    ア 建築物等の建築自体と密接不可分な一体の工事(基礎工のための掘削など)
    イ 土砂の搬入出のない地均し程度の行為(切土または盛土高が0.5m以内)
    ウ 上記の外「通常の管理行為」として次図のような場合。
      例1 : 1m未満の単なる法面処理
      例2 : 補強
      例3 : 積み直し(ただし、現在の技術基準に適合していること)
      例4 : 造り替え

補足すると、「1.開発行為」の条文は、都市計画法第4条12項に示された「土地の区画形質の変更」のと定義が
そのまま記された条文となっています。これを裏付けるように、大津市開発許可の取扱基準の3ページ
「第1章 総説 I 開発許可制度、5 主な用語の定義」の欄には「(1)開発行為 (法第4条第12項)」というように、
引用元の法令条文の番号が併記されています。

この意図は、土地の工事に関わる基準として国が定める法律の趣旨から逸脱しない範囲で、最終的に自治体として
「開発許可の取扱基準」を定めた事の表れであり、このような条文を定めた事例は全国に存在します。

[参考 : 都市計画法の条文を取り入れた開発の手引きを運用する事例]
大津市 開発事業の手引き(平成23年4月改正版)    京都市 審査基準・手引

では、次に開発許可を受けなければならないとされている工事がどのようなものであるかを見ていきます。
開発行為の許可については、「大津市開発許可の取扱基準」の中で下記のように条文として定められています。
(※学園用地は"市街化区域"に該当)

[ 大津市開発許可の取扱基準 29ページ、第3章 開発行為の許可 I 開発行為の許可 より抜粋]
  I 開発行為の許可(法第29条第1項及び第2項)
   市街化区域、市街化調整区域および都市計画区域以外で開発行為をしようとする者は、
   着手前に市長に許可を受けなければならない。

   <許可が必要な開発規模>
    ア.市街化区域 ⇒ 1000u以上が対象
    イ.市街化調整区域 ⇒ 全ての規模が対象
    ウ.都市計画区域外 ⇒ 10000u以上が対象


以上をまとめると、学園用地のある市街化区域の事案に対する開発許可の要否判断は、「大津市開発許可の取扱基準」
の条文に基づくと、工事面積、切土・盛土高さの改変の観点では、下記のように『形質の変更』を判断することになります。

まとめ :: 「大津市開発許可の取扱基準」に基づく開発許可の要否判断基準
観点開発許可が必要となる条件文書の記載箇所
面積規模開発規模(=敷地規模)1000u以上29ページ、第3章 開発行為の許可 I 開発行為の許可
(都市計画法第29条第1項及び第2項と同じ)
高さ規模切土または盛土高が0.5m以上5ページ、第2章 開発行為 I 開発行為
なお、切土または盛土発生箇所に対する面積の規定は「大津市開発許可の取扱基準」には記載がありません。

なぜ大津市は「大津市開発許可の取扱基準」を超える形状の変更を「開発非該当」と判断したのか?

では、改めて学園事案が「開発非該当」と判断された理由を振り返ります。

大津市建築審査会が、判断根拠として当時の大津市長に求めた文書によれば、
宅地造成等規正法で規定される「宅地造成」には該当していないので開発非該当であるという判断でした。

つまり、先に示した「大津市開発許可の取扱基準」ではなく、「宅地造成等規正法」の規定で、
「開発非該当」とされていた
のです。

[ 大都開第43号 審査請求に伴う開発許可不要の見解について(回答) 2ページより抜粋]
  2 土地の形状の変更の該当性
   本件に関する都市計画法施行規則第60条の規定に基づく証明書の申請図書によると、
   宅地造成等規正法の同法施行令第3条で規定される宅地造成には該当していない。

   申請図書による切土又は盛土は、下記のとおりである。

   (学校用地)
    最大切土高さ h=1.80m
    盛土     該当なし
    切土又は盛土の面積 A=423.53u

   (寄宿舎用地)
    最大切土高さ h=0.92m
    盛土     該当なし
    切土又は盛土の面積 A=341.17u

ここで登場する宅地造成等規制法施行令とは、宅地造成に関する開発行為として下記の基準のことで、
前市長の回答文書は、明らかに下記に示す条文を意識した回答となっています。

宅地造成等規制法施行令
第三条  法第二条第二号 の政令で定める土地の形質の変更は、次に掲げるものとする。
条文
一  切土であって、当該切土をした土地の部分に高さが二メートルを超える崖を生ずることとなるもの
二  盛土であって、当該盛土をした土地の部分に高さが一メートルを超える崖を生ずることとなるもの
三  切土と盛土とを同時にする場合における盛土であって、当該盛土をした土地の部分に高さが
   一メートル以下の崖を生じ、かつ、当該切土及び盛土をした土地の部分に高さが二メートルを
   超える崖を生ずることとなるもの
四  前三号のいずれにも該当しない切土又は盛土であって、
   当該切土又は盛土をする土地の面積が五百平方メートルを超えるもの
では、大津市が自ら定めた「大津市開発許可の取扱基準」に記載の無い「宅地造成等規制法施行令」を持って
判断したこと自体は正しいのでしょうか?

他の自治体では、「宅地造成法」の条項を「開発許可の取扱基準」に導入し条文化

ここで、条文解釈の示唆を与える神奈川県の「開発許可関係事務の手引」を紹介します。
神奈川県では、開発許可の判断に対して、下記の様な条文を定めています。

[ 神奈川県 「都市計画法に基づく開発許可関係事務の手引」 13ページ 12 開発行為 2 形の変更より抜粋]
 (2) 形の変更
    土地に切土、盛土又は一体の切盛土を行うもので、次のいずれかに該当する行為をいう。

    ア 高さ2メートルを超える切土又は高さ1メートルを超える盛土を行うもの。
    イ 一体の切盛土で高さ2メートルを超えるもの。
    ウ ア、イ以外で、30 センチメートルを超える切土、盛土又は一体の切盛土を行うもの。
      ただし、市街化調整区域以外の区域において、当該行為を行う土地の面積の合計が
      500 平方メートル未満の場合を除く。

ポイントは、「開発許可関係事務の手引」の判断条文として、「宅地造成等規制法施行令」の切土・盛土の高さや面積を
規制する条文を引用した条項を盛り込んでいることです。

つまり、都市計画法の枠組みとともに、宅地造成法を意識した開発要否判断が行えるよう、「開発許可関係事務の手引」に
両方の法律の条文を盛り込んでいるのです。また、「宅地造成等規制法施行令」の規制範囲に無い切土・盛土の高さ、
面積も併記することで、自治体としての独自基準の取入れも行っているのです。
形状の変更に関する神奈川県の法律・政令の枠組み




 形状の変更による開発該当判断の法的枠組み(神奈川県)

 オレンジ色の丸枠内が「形状の変更」での開発該当の
 範囲を表す。都市計画法、宅地造成等規制法施行令の
 両方に掛かっている。





この例を参考に、逆に考えると、条文に規定しないことも一つの判断と言えます。

すなわち、規制が緩くなる「宅地造成等規制法施行令」の条文を知っていながら、「大津市開発許可の取扱基準」に
盛り込まないことは、より厳しく開発該当・非該当を判断する意思表示がされたという解釈が可能
です。

自らが定めた「大津市開発許可の取扱基準」を自ら否定する規制緩和は裁量として許されないのでは?

以上の説明をまとめると、「大津市開発許可の取扱基準」に条文化された基準に該当していながら、
条文化・明文化されていない、「規制が緩くなる条件」を持って開発非該当としている不自然さ
に疑問が残ります。

なぜ、「大津市開発許可の取扱基準」に明文化された条文が忘れ去られてしまったのか。

ここで、建築審査会が照会を求めた大津市開発審査会での議論を引用します。

(2012年2月14日開催の第42回大津市開発審査会議事録 24ページより転載)
  ●委員A
   形状の変更には盛土、切土は影響するが、宅地造成の話は別であるというように理解をしていたのですが。
   それはどうですか。整理をした方が良いのですかね。要は、開発許可が必要なことに、切土、盛土の高さが
   左右されるのかということと、宅地造成との関係はどうですか。

  ○市の開発部局
   審査している内容としては、確かに開発と宅造があり、建築物の建築を目的として切土、盛土をして建築地盤の
   高さを変えることを許可なくして行なうと、建物を建てる時に影響がでてくるものです。ただ、それ以外に
   スロープ等を設ける場合があります。これについて、建築を目的としていないからといって、何でも良いとすると、
   危ない物もできてしまうこともあり、内規の方で斜路や車庫や階段等を設ける場合にあっても、宅地造成等規制法に
   基づく宅地造成に該当するものは、開発許可の申請を提出さす
ようにしています。

このやり取りにおいて、大津市の開発部局の職員は、形状の変更に対する考え方を2点述べています。

・「開発と宅造があり」と説明しています。
 この開発とは都市計画法上の開発行為、あるいは「大津市開発許可の取扱基準」で定めた開発行為を指しています。
 つまり、開発行為としては、「大津市開発許可の取扱基準」と「宅地造成等規制法」の両方の存在を認めています。

・新たに「内規」というキーワードが出てきました。
 この内規により、宅地造成等規制法に基づいて審査することを是とできることを委員に説明しています。
 ただし、この内規は「大津市開発許可の取扱基準」に条文として盛り込まれるどころか、公にすらなっていません。


以上を考えると、「宅地造成等規制法施行令」の観点を深堀するあまり、いつのまにか「大津市開発許可の取扱基準」の
存在が忘れ去られてしまったかのような印象を感じてしまいます。

形状の変更に関する大津市の法律・政令の枠組み














また、「内規」により「宅地造成等規制法施行令」で議論することの妥当性が主張されているように感じられますが、
仮に「内規」という市民・事業者が知り得ない様々な判断基準が存在するとしても、公にすらなっていない基準は、
判断基準としての法的な拘束力を持つのでしょうか?


もしも、公にされない独自基準を内規として条文化された文書以外で定めることができてしまうとしたら、
「何でも都合よく条件緩和できてしまう」ことになります。このような基準を定める行為は裁量として認められるのでしょうか?

 ※この内規に関しては後日談があり、2012年8月1日に開催された大津市との協議会という公式の場において、
  住民が問い合わせをしたところ、大津市の開発部局の職員は内規の存在について「知らない」とされました。
  そして、2012年9月1日現在も住民面談において内規に対して明確な回答は得られていません。

まとめ : 学園建設計画は、切土行為による形状の変更に該当?

以上の考察を踏まえ、当サイトとしての「形状の変更」に対する法規則の解釈を図示した上で、見解をまとめます。
形状の変更に関する大津市の法律・政令の枠組み




 形状の変更での開発該当判断の法的枠組み(大津市)

 オレンジ色の丸枠内が「形状の変更」での開発該当の
 範囲を表す。「大津市開発許可の取扱基準」によれば、
 大津市は都市計画法と宅地造成等規制法施行令は、
 独立して存在している。





今回提訴された学園建設事案に対しては、下記2つの理由で大津市建築審査会、開発審査会が下した
「開発非該当判断には誤りがある」と考えます。

(1) 大津市は「大津市開発許可の取扱基準」において、宅地造成等規制法施行令の規定よりも厳しい
 「形状の変更」に対する基準を自ら判断条項として課しておきながら、学園計画に対しては、
 「宅地造成等規制法施行令」への適合性のみを持って判断し、「大津市開発許可の取扱基準」での判断を
 行っていない点で、判断に過失の疑いがあること。

(2) 開発審査会、建築審査会における大津市の開発部局の職員が、「大津市開発許可の取扱基準」に記載の無い、
  宅地造成等規制法上の基準をしきりに引用した結果、大津市は自らが規定した開発行為の基準に対する適合確認を
  正しく行えなかった疑いがもたれること。

上記が認められるのであれば、申請図書に対して誤った判断を行ったことなり、都市計画法60条に基づく証明書は無効。
結論として、それを前提とした建築確認も誤りとなり、「開発該当の判断を伴う建築確認の取り消し」の事案と考えます。

1つ、このような観点で、公判の動向を注目していきたいと思います。


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