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建築物の除去・使用停止等を求める義務付け訴訟は地盤安全性の実質議論へ

幸福の科学学園・関西校用地の地盤安全性の疑義に端を発した学園校舎・寄宿舎の建築確認取消訴訟は、 過去類似判例である「建築物の完成による訴えの利益の喪失」を理由に2013年7月の大津地裁で却下判決があり、 現在は大津市を相手とした建築物の除去・使用停止・擁壁等の設置の義務付けを求める訴訟の形で訴訟を継続中です。

2014年4月に行われた大津地裁の公判では、義務付けの要否に直結する地盤安全性について実質的な議論を促す訴訟指揮が取られました。 開校後も続く訴訟の最新の経過をお伝えします。

地盤安全性に対する懸念は開校直後から早くも具体化

そもそも仰木の里での大規模な学校設置計画にあたっては、

・滋賀県より琵琶湖西岸・花折断層帯に隣接する大規模災害の警戒地域に指定されていること。
・学園用地は近年多発する地すべり被害が問題視される大規模盛土造成で成り立っていること。
・学園用地は元々は河川という軟弱地盤の上に位置すること。
・学園用地は過去に2度も地すべりを起こしていること。
・学園用地周辺からの湧水や、法面の円弧滑りが校舎建設前から見られ常態化していること。

という固有の立地事情に基づく地盤安全性の懸念が指摘されてきました。

そのため計画発覚当初から大規模な建築工事に際しては、住民と学園との間で安全性の相互確認に必要として、 学園用地に対するボーリングデータの提出と、それに基づく安全対策の説明が住民から要求されてきました。

しかしながら、工事の過程ではボーリングデータ等の地盤安全性の根拠となる客観的な科学的裏付けが一切示されなかったばかりか、 建築の前提となる開発行為について「非該当」とすることで地盤対策に踏み込んだ工事を回避するかのような建築工事の申請が行われ、 開発該当であれば法的に申請時に提出が必要だった地盤に関する調査データも不要とされました。

工事と並行して審理された大津市建築審査請求、及び大津地裁での建築確認取消し訴訟では、

・開発非該当の根拠とされた大津市の開発安全性確認基準が無形の内規を盾に2転3転したこと。
・宅地造成等規制法上の法基準を超えた設計・施工の疑いが設計図面と現地測量で判明したこと。
・上記に対して、大津市が建築確認審査機関に対して指導文書を出していたこと。

などが公になるも、それらの事実認定を巡っては未だ結論が出ていません。

[関連コンテンツ]
建築確認の取消しを求める訴状の徹底解説 審査請求棄却の経緯を議事録から詳細解説



このように建築による地盤危険の増加の懸念や工事の経緯に多くの禍根を残した状態でしたが、 実際に開校直後から学校用地を支える土地の法面をはじめとする様々な地点で湧水が増加したばかりか、水路から歩道への滝のような水量で 大規模に排水溢れが引き起こされるなど、既に建設前の住民指摘が現象として表面化し始めており住民の不安は増すばかりです。

歩道への大規模排水あふれ 歩道への大規模排水あふれ







写真は開校わずか3ヶ月後の2013/7/4の学園グラウンドからの大規模排水溢れの様子。(2013/7/11 大津地裁・原告意見陳述書添付資料より)
この日の大津市の降水量は、午前4〜5時が0.5mm、5〜12時が0.0mm、12〜13時が1.0mm、13〜14時が1.5mm(日本気象協会データより)と少量であったものの、 14時過ぎにはグラウンドからの雨水排水によって歩道がかなりの距離にわたって水没しました。

地盤安全性の判断は原告である近隣住民による危険立証の局面へ

一方で、2013年度には地盤安全性の議論に一石を投じる大きな動きがありました。

学園校舎・寄宿舎棟の除去・使用停止等を求める義務付け訴訟の経過において、大津市が宅地耐震化推進事業の一環として行った簡易土質調査結果の一部が公開され、この中に学園用地に関する調査結果も含まれていたのです。 この調査は国交省作成の「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドライン」に基づくもので、 これにより近隣住民・学園関係者でない第三者が公平な立場で実施した調査データに基づく地盤検証の道が開けてきたのです。

[関連情報]
『大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドライン』 (国交省、PDF)
大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドラインの解説 (国交省、PDF)

2014年4月の大津地裁・第7回口頭弁論では、原告・弁護団より以下の主張が行われました。

・大津市公開の調査データの一部が黒塗りされているが、それらは安全計算に必要であること。

・国交省作成の「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドライン」に引用された「統計的側部
 抵抗モデル」という解析手法については、既に安全率を計算するExcelファイルがWeb公開
 されている公知の手法であること。

・学園用地の正確な地盤安全性の検討には大津市が公開した文書中の前述黒塗り部分の数値の
 公開に大津市が応じる必要があるが、それらが公開されれば解析手法に当てはめて安全率
 の計算結果を提出する準備があること。

このような原告主張に対して大津地裁の山本義彦裁判長は、学園用地の地盤データの調査結果の黒塗り部について数値を公開するよう被告である大津市に提出を再三強く促し、原告に危険立証を求める積極的な訴訟指揮を行いました。

国交省の調査ガイドラインで語られた地盤安全性計算の手法とは?

では、原告の主張に盛り込まれた「統計的側部抵抗モデル」とは、どのようなものなのでしょうか。

「統計的側部抵抗モデル」とは、別名「太田-榎田モデル」とも呼ばれる地盤安全率の計算手法です。 その計算手法の確からしさについては東日本大震災などの事例に当てはめた科学的な裏付け検証が論文発表されるなど土木・地盤工学の分野で広く認知されています。

国交省が各自治体に示し、Webでも公開されている「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドラインの解説」という文書では、 「統計的側部抵抗モデル」は、「V 第二次スクリーニング計画の作成」の「2) 滑動崩落の危険度評価と被害規模の想定」の「[参考5.2] 滑動崩落の危険度を評価する手法の例」(p50)の表中(3)-2)として危険度判断の具体的手法と説明されています。

また同文書では、国土地理院作成の「盛土形状計測・相対的滑動崩落発生可能性評価支援システム」にも組み込まれると例示するなど、 「統計的側部抵抗モデル」を「盛土の安全性を評価するシステム」として、その有用性を説明しています。(p61 5-6行目、手法の詳細はp62-p66に記載)

[関連文献]
2011年東北地方太平洋沖地震に伴う造成地盛土の地すべり (第50回日本地すべり学会)
谷埋め盛土の地震時滑動崩落の安定計算手法 (第3回地盤工学会関東支部研究発表会)
谷埋め盛土の地震時危険度簡易判定プログラム(側方抵抗モデル) (太田ジオリサーチ)

最近では、防災意識の高まりを受け、「統計的側部抵抗モデル」を用いた地盤安全率の算出ツールとして、Web上でのExcelファイルの形式でワークシートの公開も開始されました。

[関連:計算ワークシート] 造成地盛土の地震時危険予測ワークシート 造成地盛土の地震時危険予測ワークシート
 (上のリンクをクリックし、リンク先のページ中央「taniume」と
         書かれた画像をクリックするとExcelが入手できます)

 Excelシートに入力するデータは、盛土の形状と土質を導くための
 盛土面積・幅・長さ・深さ・勾配・地下水の有無というパラメータ。

 これらを入力することで評価指標である安全係数が自動算出されます。
 (原告提出・甲95号証)

地盤安全性の疑義に対する結論付けに期待の声も

義務付け訴訟おける重要なポイントは、大津市が情報公開請求で住民に公開し、大津地裁にも提出された学園用地に関する調査結果の文書(原告第5準備書面・資料1「二次元安定計算結果」)が、 国交省のガイドラインに記された「統計的側部抵抗モデル」での安全率算出に当てはめるべく形式で作成されていたことです。

これを踏まえてまとめると、今回の原告・弁護団の主張は、計算ツールが既に公開され、かつ、国交省より「地盤安全性確認の手法」と謳われた手法に対して、"大津市"という土地所有者以外の第三者の調査結果を適用することで公平に地盤安全性を確認し、その結果を持ってその上に成り立つ建築物の除去・使用停止・擁壁等の設置の義務付けを判断すべきということになります。

事実、4月の公判では大津地裁の積極的な訴訟指揮の下、実質的な安全性確認の結果が裁判官の判断に盛り込まれるように進行しており、 現時点では、原告がである近隣住民に対して地盤安全性の疑義に対して一定の結論がなされるものとなりそうです。