1. HOME > 学校設置反対の動きと経過 > 大津市の「内規」が反論書面として裁判所に提出されるも、住民の情報公開請求では公開されず。

大津市の「内規」が反論書面として裁判所に提出されるも、住民の情報公開請求では公開されず。


幸福の科学学園の校舎棟・寄宿舎棟に対する建築確認取り消しを求めた訴状は、
『形質の変更』と呼ばれる観点での開発該当性に対して、深く切り込んだ内容が争点とされています。

現在、大津地裁では建築確認の取り消しを求める訴訟が審理されていますが、
審理の過程で裁判所に提出された文書から、大津市の『形質の変更』の判断基準の運用解釈が
新たに明らかとなってきました。

今回は、裁判所に提出された文書等を引用しながら、『形質の変更』の解釈に関する
議論の経過を報告します。

開発該当性の判断を「大津市開発許可の取扱基準」で行わない理由を求めて浮かび上がった内規の存在。

幸福の科学学園の校舎棟・寄宿舎棟の建築に対して行った「開発非該当」の判断は、宅地造成等規制法に
基づいた判断を「是」とできることを開発審査会で委員に説明し、この判断を受けた大津市建築審査会は
「棄却」の裁決を行いました。

これに対し、審査請求人である住民らは、「開発非該当」の判断は大津市が定める「大津市開発許可の取扱基準」で
切土高・掘削面積が判断されないことに異議を唱え、新たに原告団を構成して提訴に踏み切りました。
(下図は、原告団主張の概要図)
形状の変更に関する大津市の法律・政令の枠組み














建築審査請求の裁決後、住民らが情報公開請求により入手した議事録によれば、
「内規」により「大津市開発許可の取扱基準」でなく「宅地造成等規制法施行令」で判断することの妥当性が
大津市開発部局の職員によって主張されていました。

しかしながら、

・『そもそも「内規」とはいかなるものなのか?』
・『条文として公表もされていない「内規」による判断は正しいのか?』

という疑問が深まっていました。

判明した内規は「『車庫及び階段・スロープ』の工事に関する開発行為適用除外規定」。住民説明は二転三転。

まず最初に、文字通り二転三転した内規の解釈に関する住民説明の経過を下表に示します。

「形の変更」に対する内規についての大津市見解の変遷
日付概要関連文書
2012/2/14 開発審査会において大津市の開発部局が「内規」を引用し説明する
-
2012/7/4 大津市建築審査会の議事録を住民が入手
-
2012/8/22 面談において、大津市都市計画部の職員が住民が下記のように説明。
・議事録に示された「内規」は、「開発事業の手引き」のことを指している。
・そもそも大津市では以前から「内規」なるものの運用は行っていない
-
2012/8/30 面談において、住民が「開発事業の手引き」に内規の条文が存在しないことを
指摘すると、大津市都市計画部の職員は「内規は頭の中にある」と説明。
頭の中にある
情報のため
公開不可
2012/9/3 面談において、「市街化調整区域」に対する取り扱い基準を「市街化区域」の
事案に準用し、学園建築の開発非該当判断
となっていたことが発覚。これを受け、
「平成24年2月14日大津市開発審査会議事録のP24にある内規」を情報公開請求。
-
2012/9/6 「車庫及び階段等の設置の取扱いについて」という文書を情報提供の形で提供を
受ける代わりに申請済みの情報公開請求の取り下げを求められ、応じる。
提供を受けた適用範囲は市街化調整区域。(学園用地は「市街化区域」)
情報
公開文書
2012/10/30 『スロープや階段の造成において開発行為となる範囲』について、
市街化調整区域/市街化区域に関係なく、平成19年から内規運用していたことを
説明する文書が大津市長の印鑑入りで発行される。

その後、被告の主張補充書面乙21号証として大津地裁に提出される。
裁判所
提出文書
当初「知らない」と大津市開発部局の職員が住民に回答した開発該当/非該当の判断基準となる「内規」は、
やがて『車庫及び階段・スロープ』の工事に関する開発行為適用除外規定であるとされました。

これにより、先に裁決の下った建築確認取消しを求めた審査請求が棄却された要因は、審査請求人が指摘した
切土高・掘削面積に関する主張が、この『車庫及び階段・スロープ』の工事に関する内規の適用により、
「大津市開発許可の取扱基準」で判断されなかったということになるのです。

そして、最終的には「内規として以前から定めていた」「平成19年から既に運用中」として、
裁判の被告主張資料を通じて、堂々と内規による判断の妥当性が主張されたのです。

しかし、何より見逃せないのは、建築審査会直後から住民が情報公開請求での文書開示や、
仰木の里学区自治連合会・仰木の里まちづくり連合会と大津市との公式な面談において、再三に渡って
内規についての問い掛けがなされたにも関わらず、「内規は頭の中にある」として文書が存在しない旨の
説明を繰り返しておきながら、一方で、裁判所に対しては5年も前から内規を定めて運用していたとして
内規が書かれた文書を提出し、被告反論文書の中で主張を行った点です。

なぜ、このタイミングで文書の形式で内規を公としたのか、弁護団・原告団の間では戸惑いの声が上がっています。
以降、入手した文書を中心に詳しく解説していきます。

最初に住民が入手した「内規」は「市街化調整区域」での車庫及び階段・スロープの工事が対象。でも。。

開発行為該当性の判断に影響する内規の存在は、大津市開発審査会の議事録に示された
市の開発部局の職員による下記の発言を発端にクローズアップされました。

(2012年2月14日開催の第42回大津市開発審査会議事録 24ページより転載)

  ○市の開発部局
   審査している内容としては、確かに開発と宅造があり、建築物の建築を目的として切土、盛土をして建築地盤の
   高さを変えることを許可なくして行なうと、建物を建てる時に影響がでてくるものです。ただ、それ以外に
   スロープ等を設ける場合があります。これについて、建築を目的としていないからといって、何でも良いとすると、
   危ない物もできてしまうこともあり、内規の方で斜路や車庫や階段等を設ける場合にあっても、宅地造成等規制法に
   基づく宅地造成に該当するものは、開発許可の申請を提出さす
ようにしています。


この発言によれば、スロープ等の工事については内規が定められており、宅地造成等規制法で定められた
規模以下のスロープであれば、開発許可を受ける必要が無いと解釈されていることが分かります。

では、この「内規」とは、正確にはどのようなものだったのでしょうか?

この疑問に対する回答は、先日行われた大津市に対する情報公開請求(その後、交渉により取り下げ)により
明らかとなりました。公開された内規は下記のとおりでした。

市街化調整区域に対する開発行為に関する内規


  (情報公開文書::車庫及び階段等の設置の取扱いについて)





(情報公開文書「車庫及び階段等の設置の取扱いについて」より引用掲載)

   市街化調整区域における車庫及び階段・スロープの取り扱いについては、主たる建築物と付属建築物(車庫及び
   階段・スロープ)が同時に建設されるのであれば、政令第22条第1項第2号に該当すると判断する。なお、規模の
   小さいものとあるため、運用として宅地造成等規制法の許可の必要の無い規模に限定する。

   屋根無しの車庫の造成も、同様に取り扱う。また、階段、スロープは建築物でないが、「軽易な行為で無秩序な
   市街化の防止という見地から著しい弊害を生ずる恐れのないもの」として同様に取扱う。車庫の広さについては、
   市取扱基準の付属建築物の規模(延床面積50u以内、ただし既存建築物の規模とのバランスを考慮)を準用する
   ものとする。

   平成22年9月7日再確認

   <解説>
   政令第22条第1項第2号、「車庫、物置その他これらに類する附属建築物の建築の用に供する
   目的で行う開発行為」は適用除外



確かにこの文書には、スロープ等の建築に対しては、宅造法の基準で定められた規模以下であれば、
開発非該当とできる旨が示されていました。

しかし、この文書が説明していたのは、「市街化調整区域」での建築計画に対する内規だったのです。

ここで、一つの疑問が浮かんできます。

今回の学園建設用地が「市街化区域」での建築工事であるにも関わらず、
「市街化調整区域」での行為を規定した内規を「市街化区域」での建築工事に準用しても問題無いのでしょうか?


この疑問を持った住民は、大津市開発部局に対して上記の質問を行いました。

すると、大津市開発部局の職員は、「市街化調整区域」での行為を規定した内規を、「市街化区域」に準用した背景には、
担当職員の頭の中に適用してよいというルールがあったためという回答を住民に行ったのです。

しかし、そもそも公開されてこなかった「内規」が開発非該当を結論付ける理由として妥当なのか?
さらには、「市街化調整区域」での行為を規定した内規を「市街化区域」での建築計画に対して、
明確な取り決めもなく、準用という運用を行っても問題ないのか?

疑問は深まるばかりでした。

存在しないとされた「内規」は、裁判の被告主張の補充資料の中で初めて「内規として定めている」と明言。

「市街化調整区域」での行為を規定した内規が「市街化区域」での開発行為該当性判断に準用できるのか?

この疑問を住民が検証する間に、驚くべき文書が公表されました。

「スロープや階段の造成において開発行為となる範囲」については、
平成19年以降、「宅地造成等規正法施工令 第3条の規定」を準用して判断することが
内規として定められていたとする市長印入りの文書が、裁判における被告主張補充資料として明らかとなったのです。

裁判所提出資料


  裁判所提出の乙21号証





(幸福の科学学園に対する建築確認取消しを求める訴訟 乙21号証より抜粋)

   平成19年度以降、「都市計画法施工規則第23条の規定に基づくがけ面の保護の条項」及び「宅地造成等
   規正法施工令第3条に規定する宅地造成の条項」を総合的に考慮し、宅地造成等規正法施工令第3条の規定を
   準用して、本市においては開発行為該当性について以下の基準を内規として定めています。

   スロープや階段の造成において開発行為となる範囲を下記のように運用

    規定により開発行為となる行為
     一  切土であって、当該切土をした土地の部分に高さが二メートルを超える崖を生ずることとなるもの
     二  盛土であって、当該盛土をした土地の部分に高さが一メートルを超える崖を生ずることとなるもの
     三  切土と盛土とを同時にする場合における盛土であって、当該盛土をした土地の部分に高さが
        一メートル以下の崖を生じ、かつ、当該切土及び盛土をした土地の部分に高さが二メートルを
        超える崖を生ずることとなるもの
     四  前三号のいずれにも該当しない切土又は盛土であって、
        当該切土又は盛土をする土地の面積が五百平方メートルを超えるもの

   ※ ただし、「開発の手引き」を参照し、土砂の搬出入のない地均し程度の行為(切土または盛土高が0.5m以内)、
     既存の舗装のやりかえや新設等、単に現況を整形する行為と認められる場合は、形の変更に該当しない
     ものとして取り扱う。また、スロープ等の設置については、四に規定する形の変更に該当しない範囲の
     ものについて形の変更に該当しない範囲のものとして取り扱う。


さらに、被告主張補充資料では、この内規による判断基準の運用実績までもが示されていたのです。

しかし、この診断基準を適用した対象が「市街化区域」を対象とする案件なのか、「市街化調整区域」を
対象とする案件なのか、適用された案件における「スロープや階段の造成の規模」については、何ら示されませんでした。

裁判の主張補充資料には、内規の妥当性を主張する全国自治体に取ったアンケート結果までも添付

内規に関する裁判の主張補充資料には、形の変更に対する開発行為該当性に関する判断基準に続いて、
「他都市の事例」と銘打った章立てが存在し、内規で定めた運用基準の妥当性が主張されています。

この主張補充資料では、大津市が運用している「規模により開発行為となる範囲」とほぼ同様の基準が
他の自治体では運用として明記されており、よって大津市の運用も問題が無いとされています。

アンケート結果
  乙21号証
  他自治体へのアンケート
  (回答結果一覧)
アンケート質問文
  乙21号証
  他自治体へのアンケート
  (質問文)








(幸福の科学学園に対する建築確認取消しを求める訴訟 乙21号証より抜粋)

   2.他都市の事例

    政令市及びそれらを有する道府県、全国の中核市、近畿地方整備局管内の特例市の合計84自治体に
    照会した結果、現在74自治体から回答があり、その内、25自治体においては、スロープ等の設置の
    形を変更として取り扱っておりません。

    また、形を変更としている49自治体においては夫々に基準を定めて運用しており、その中では以下の
    自治体において本市が運用している「規模により開発行為となる範囲」とほぼ同様の基準が明記されて
    運用されています。


[乙21号証で例示された「形の変更」に関する基準の一覧]
自治体条文掲載頁
札幌市札幌市開発許可等審査基準 第3条 土地の区画形質の変更1頁下段(pdfの2頁目)
横浜市都市計画法による開発許可の手引 第3章 第1節 5.土地の形の変更制-10(pdfの10頁目)
川崎市都市計画法第4条第12項の規定による土地の区画形質の変更に係る取扱基準
2.土地の形の変更
1頁(pdfの1頁目)
広島市開発行為に係る土地の「形の変更」の取扱いについてWeb公開なし
熊本県開発許可申請の手引き 第2章 開発行為
第1節 1.開発行為 (2)土地区画形質の変更」とは
1頁
しかし、乙21号証に示された他の自治体の運用例は、あくまで条文として整備されて周知された運用事例であり、
大津市が内規として定めた文書が存在せず、また、公にされていなかったことを踏まえると、
その判断基準としての内規が同様に妥当であると言えるかどうかは議論の余地を残すと思われます。

また、裁判の補充資料として内規としての判断基準が明文化された資料として公になったとしても、
過去に遡って判断基準として適用できるということになるのかどうか、疑問を持たざるを得ません。

「内規」は住民の情報公開で示されず、裁判の証拠として住民に示されたことに戸惑いを隠せません。

開発行為となる範囲を定めた「内規」が裁判の証拠資料として、初めて原告を含む住民に明文化文書として
大津市から示されたことに対して、学園建設の進む大津市仰木の里の住民からは驚きの声が挙がっています。

「内規」に関する疑問が湧き上がったのは、仰木の里の8300名にも及ぶ住民が審査請求人として起こした
建築審査会の議事録を分析し、開発行為該当性の判断基準について、当時、公になっていた条文からは
その妥当性の説明が付かなかったことが発端でした。

その後、仰木の里学区自治連合会の役員を含む住民と大津市との間で行われた正式面談において、
何度も内規に関する質問が繰り返され、情報公開制度に基づく資料請求で内規に関わる明文化文書が
不存在であるという回答が行われていましたが、その矢先に今回の裁判における被告の主張補充資料の形で
初めて「内規」が条文として定められていたことを示しただけでなく、他の自治体にアンケートまでとって、
内規運用の妥当性を主張するに至ったのです。

もはや、公式面談での大津市の発言や情報公開で示された文書の信憑性が疑われる事態と言わざるを得ません。
容易には住民の不信感は拭えないでしょう。

裁判の動向と共に、一連の大津市の対応について、どのように住民に対して説明・対応がなされるのか、
経過を見守りたいと思います。

(追記)後日談 :: 開発基準に関する「内規」文書は"裁判資料を差し替え"

開発行為となる範囲を定めた大津市の「内規」が建築確認取消し訴訟の証拠資料(乙21号証)として提出されたことは、
当ホームページで該当書面の掲載とともにお伝えしていました。

この証拠資料に対し、その後、裁判所に対して訂正された資料(乙25号証)が提出されていたことが判明しました。
  
差し替え資料


  乙25号証
  (裁判所差替え文書)








文書訂正後は、下記のように文言が修正され、「内規として定めていた」から「運用していた」と変更になりました。


 (修正前 :: 乙21号証)
  平成19年度以降、「都市計画法施工規則第23条の規定に基づくがけ面の保護の条項」及び「宅地造成等
  規正法施工令第3条に規定する宅地造成の条項」を総合的に考慮し、宅地造成等規正法施工令第3条の規定を
  準用して、本市においては開発行為該当性について以下の基準を内規として定めています。

  スロープや階段の造成において開発行為となる範囲を下記のように運用

  ====================

 (修正後 :: 乙25号証)
  平成19年度以降、「都市計画法施工規則第23条の規定に基づくがけ面の保護の条項」及び「宅地造成等
  規正法施工令第3条に規定する宅地造成の条項」を総合的に考慮し、宅地造成等規正法施工令第3条の規定を
  準用して、本市においては開発行為該当性について以下のように運用しています。

  スロープや階段の造成において開発行為となる範囲を下記のように運用


なぜ、大津市長印まで押されて情報公開された文書が、裁判所に提出された文書が、訂正に至ったのでしょうか?

この理由はわかりませんが、いずれにせよ、訂正により開発基準の判定に際して、
「内規」という規則が存在しなかったことが、かえって明確となりました。

内規が存在しなかったとなれば、先の建築審査会で開発非該当とされた判断の根拠がなくなることなります。
開発該当・非該当の判断の妥当性を議論するうえで、大きな影響を及ぼす文書となりそうです。