建築確認取り消し審査請求の裁決文に対する詳細解説
幸福の科学学園・関西校の校舎・寄宿舎棟の建築確認取消し審査請求に対し、
滋賀県大津市建築審査会で結審された裁決の通知が2012年6月1日に行われました。
本記事では、仰木の里まちづくり連合協議会(まち連)と弁護団が行った2011年12月12日の
審査請求提出直後の記者会見、裁決決を受けた直後の6/1に行われた記者会見、及び、
6/10に行われた地元報告会での説明を踏まえ、裁決文と請求人主張との対比を中心に、
裁決内容について解説を行います。
[建築確認取消し審査請求に対する裁決文(全文掲載)]
(仰木の里まちづくり連合協議会HP掲載)
論点@ : 審査請求人適格について
今回の審査請求の裁決では、敷地崩壊により直接影響を受ける範囲の住民319名に対して、
審査請求人適格が認められました。
日本の過去の判例を振り返ると、審査請求人適格の認定範囲は極めて狭く、かつ、申立人が直接被害を
受けた状態でないと対象にならないという極めて狭い範囲しか認められて来なかった歴史があります。
今回の審査請求では、その前例を覆し、大規模建築物の施工により直近被害を受ける可能性が極めて
高い場合であれば、審査請求人適格を認めて良いという判断となりました。
この審査請求人適格の認定判断は、今後、大規模建築物の建築に関する建築紛争に対する新たな引用判例
として用いられることになると思われます。
審査請求人適格が認められました。
判断の記載箇所 : 裁決文3ページ
日本の過去の判例を振り返ると、審査請求人適格の認定範囲は極めて狭く、かつ、申立人が直接被害を
受けた状態でないと対象にならないという極めて狭い範囲しか認められて来なかった歴史があります。
今回の審査請求では、その前例を覆し、大規模建築物の施工により直近被害を受ける可能性が極めて
高い場合であれば、審査請求人適格を認めて良いという判断となりました。
この審査請求人適格の認定判断は、今後、大規模建築物の建築に関する建築紛争に対する新たな引用判例
として用いられることになると思われます。
論点A : 開発該当性の判断について
そもそも、今回の建築確認取り消し審査請求は、建設用地の近隣居住住民が不安視した地盤安全性の疑義に
端を発しています。
申請人らが審査請求前に入手した地盤に関する資料、及び、審査過程で処分庁・UR等の関係団体より提出された
ボーリングデータより導き出された分析結果によれば、地盤強度を表す指標値は著しく低い値を示しており、
土地造成時の開発未了の疑いがあることが主張されました。
また、審査請求時点で既に行われていた建設工事の現場では、建築確認の申請図面以上の切土・盛土工事が
行われており、開発該当判断の法基準となる面積、及び、切土・盛土の程度を大きく上回っている、
言い換えれば、建築確認が前提とする開発完了の要件を満たさない、「開発行為を行いながらの建築行為」
であることが工事現場写真などを通じて具体的に指摘されてきました。
このような背景を踏まえた審理となりましたが、一方で、そもそも開発該当性について、建築審査会において判断に
踏み込んだ裁決を行うか否かが1つのポイントと見られていました。
これに対して、裁決文では、「仮に本件建築計画が、開発許可を要するものであったとすれば、この処分が違法と
判断される余地がある」として、大津市建築審査会では開発許可要否に関する検討が必要という判断となりました。
このような建築審査会という場において「建築確認の前提となる開発要否判断の確かさも検討すべき」とした
考え方については、今後、全国で行われる審査請求に対して一石を投じた判断となりました。
では、次に、具体的な開発非該当判断の根拠・理由について、詳細を見ていきます。
下記では、主な論点項目について、請求人らの主張と建築審査会の判断根拠を対比しながら列挙します。
[(1) 土地の形状の変更について] ※切土/盛土の程度の話
土地の形状の変更の論点に対して、審査請求人は詳細な検討を行うとともに、資料を持って形状の変更があると
訴えていたのに対して、大津市建築審査会は具体的に請求人提出の資料に対する反証を行わず、
単に「宅地造成に該当する形状の変更はない」とする大津市の意見に追随しただけの判断となりました。
なお、裁決文においては、請求人が要望した現地検証が実施されたという記載はありませんでした。
[(2) 土地の性質の変更について] ※宅地造成の確かさの話
土地の性質の変更の論点については、大津市建築審査会は、大津市(開発許可権者、開発審査会)が主張する
宅造法に基づく検査済書を受けた土地であるということのみをもって、建築基準法第19条に適合していると
判断しています。
しかしながら、そもそも請求当初から検査済書の判断根拠を疑問視する請求人の疑問・指摘に対して、
請求人提出の資料に対する具体的な反証が行われておらず、何ら回答となっていません。
このような疑問・指摘に直接答えていない裁決に対し、請求人らは「形式的判断に対して不当」という
意思表明を行っています。
[(3) 建築物敷地の安全性について] ※建築基準法19条への見解
建築物敷地の安全性の論点についても、大津市・URの主張に追随する判断が示されました。
ここでも、極めて詳細なデータ分析に基づいて、違法性を立証した請求人に対し、
大津市建築審査会の独自調査、判断の結果は記されませんでした。
地すべりのがけ崩れ等の被害については、UR及び大津市への「聞き取り調査」が行われたことが
唯一、具体的に示されましたが、UR及び大津市が「被害のおそれがない」とした科学的データに基づく判断根拠に
関しては一切記載がありません。
違法な開発許可であると訴えた、その当事者に判断を委ね、その意見を判断の根拠としている点について、
請求人らは重大な問題があると主張しています。
端を発しています。
申請人らが審査請求前に入手した地盤に関する資料、及び、審査過程で処分庁・UR等の関係団体より提出された
ボーリングデータより導き出された分析結果によれば、地盤強度を表す指標値は著しく低い値を示しており、
土地造成時の開発未了の疑いがあることが主張されました。
また、審査請求時点で既に行われていた建設工事の現場では、建築確認の申請図面以上の切土・盛土工事が
行われており、開発該当判断の法基準となる面積、及び、切土・盛土の程度を大きく上回っている、
言い換えれば、建築確認が前提とする開発完了の要件を満たさない、「開発行為を行いながらの建築行為」
であることが工事現場写真などを通じて具体的に指摘されてきました。
このような背景を踏まえた審理となりましたが、一方で、そもそも開発該当性について、建築審査会において判断に
踏み込んだ裁決を行うか否かが1つのポイントと見られていました。
これに対して、裁決文では、「仮に本件建築計画が、開発許可を要するものであったとすれば、この処分が違法と
判断される余地がある」として、大津市建築審査会では開発許可要否に関する検討が必要という判断となりました。
判断の記載箇所 : 裁決書5ページ
このような建築審査会という場において「建築確認の前提となる開発要否判断の確かさも検討すべき」とした
考え方については、今後、全国で行われる審査請求に対して一石を投じた判断となりました。
では、次に、具体的な開発非該当判断の根拠・理由について、詳細を見ていきます。
下記では、主な論点項目について、請求人らの主張と建築審査会の判断根拠を対比しながら列挙します。
[(1) 土地の形状の変更について] ※切土/盛土の程度の話
請求人の主張 | ・実際の工事では、計画図面以上に形状を変更している。 写真、測量による算出データが証拠。 ・現地での測量検証結果に基づくと、切土/盛土の規模が申請図面は過小表記となっている。 |
裁決書の判断 | ・開発許可権者 : 建築計画には基準を超える工事は無し(2012年1月24日報告) ・開発審査会 : 建築計画には基準を超える工事は無し(2012年2月14日審査) |
判断の記載箇所 : 裁決書5ページ 中段
土地の形状の変更の論点に対して、審査請求人は詳細な検討を行うとともに、資料を持って形状の変更があると
訴えていたのに対して、大津市建築審査会は具体的に請求人提出の資料に対する反証を行わず、
単に「宅地造成に該当する形状の変更はない」とする大津市の意見に追随しただけの判断となりました。
なお、裁決文においては、請求人が要望した現地検証が実施されたという記載はありませんでした。
[(2) 土地の性質の変更について] ※宅地造成の確かさの話
請求人の主張 | ・適切に造成されたにしては、危険の兆候となる現象が多数存在。 ・URから入手した資料より地盤分析した結果、地盤強度を表す安全係数が低いことが判明するなど、 造成不備/開発未了の疑いが晴れない。(分析結果を資料化し、提出することで具体的に指摘) ・地盤安全性の判断に至った科学的根拠が行政から提示されないことも不信。 |
裁決書の判断 | ・開発許可権者 : 土地区画整理法、宅地造成法に基づき、適正に造成されている。 ・開発審査会 : 土地区画整理法、宅地造成法に基づき、適正に造成されており、建築で変更もない。 |
判断の記載箇所 : 裁決書5ページ 下段
土地の性質の変更の論点については、大津市建築審査会は、大津市(開発許可権者、開発審査会)が主張する
宅造法に基づく検査済書を受けた土地であるということのみをもって、建築基準法第19条に適合していると
判断しています。
しかしながら、そもそも請求当初から検査済書の判断根拠を疑問視する請求人の疑問・指摘に対して、
請求人提出の資料に対する具体的な反証が行われておらず、何ら回答となっていません。
このような疑問・指摘に直接答えていない裁決に対し、請求人らは「形式的判断に対して不当」という
意思表明を行っています。
[(3) 建築物敷地の安全性について] ※建築基準法19条への見解
請求人の主張 | ・危険兆候があり、地盤改良などの開発措置が必要。 ・審査請求の公開口頭審査直前まで防災配水管の存在を大津市が知らなかった状況を踏まえると、 8年前に宅地造成の完了に対する正しい検査/判断ができたと言い難い。 ・用地斜面の安全係数が不足しており、危険である。 |
裁決書の判断 | ・建築確認の書面より処分庁等が確認しているから問題なし。 ・宅地造成法に基づく検査済証が発行されているから問題なし。 ・斜度が緩いから大丈夫。 ・建築確認では法面の安全係数は考慮不要。 ・危険兆候に対して、URへの聞き取り、大津市開発調整課への聞き取りを行ったが問題なしとのこと。 |
判断の記載箇所 : 裁決書6-7ページ
建築物敷地の安全性の論点についても、大津市・URの主張に追随する判断が示されました。
ここでも、極めて詳細なデータ分析に基づいて、違法性を立証した請求人に対し、
大津市建築審査会の独自調査、判断の結果は記されませんでした。
地すべりのがけ崩れ等の被害については、UR及び大津市への「聞き取り調査」が行われたことが
唯一、具体的に示されましたが、UR及び大津市が「被害のおそれがない」とした科学的データに基づく判断根拠に
関しては一切記載がありません。
違法な開発許可であると訴えた、その当事者に判断を委ね、その意見を判断の根拠としている点について、
請求人らは重大な問題があると主張しています。
裁決結果に対する見解のまとめ
今回の審査請求で最も望まれたことは、自身の生活ステージとなる地域の地盤不安に対する「実質的な判断」でした。
その判断を仰ぐため、請求人ら住民は極めて詳細なデータ分析結果を提出するとともに、調査・分析結果が否定される
場合には、提出資料を具体的に引用した反論が得られ、それが地域住民の不安解消に繋がると期待していました。
しかしながら、大津市建築審査会の裁決は、独立機関としての調査・判断が全く行われず、
大津市の関係部局の判断に追随しただけのものでした。
このように、地盤安全性の疑義に対しては、請求人らの住民の懸念点が科学的根拠に基づいて具体的に
否定されたのではなく、発行済みの判断や書類、違法な開発許可であると訴えた相手である当事者の判断を
根拠とされました。
この結果は、請求人らの住民の不安が解消されるどころか、不安が助長した結果だったのではないでしょうか?
その判断を仰ぐため、請求人ら住民は極めて詳細なデータ分析結果を提出するとともに、調査・分析結果が否定される
場合には、提出資料を具体的に引用した反論が得られ、それが地域住民の不安解消に繋がると期待していました。
しかしながら、大津市建築審査会の裁決は、独立機関としての調査・判断が全く行われず、
大津市の関係部局の判断に追随しただけのものでした。
このように、地盤安全性の疑義に対しては、請求人らの住民の懸念点が科学的根拠に基づいて具体的に
否定されたのではなく、発行済みの判断や書類、違法な開発許可であると訴えた相手である当事者の判断を
根拠とされました。
この結果は、請求人らの住民の不安が解消されるどころか、不安が助長した結果だったのではないでしょうか?
参考:審査請求に対する審理経過と主な出来事
日付 | 内容 |
---|---|
2011年12月12日 | 建築確認取消し審査請求 |
2011年12月26日 | 大津市が署名委任状を含む書類確認完了、及び、請求人提出の書類に対し一部修正の依頼 |
2011年12月27日 | 審査請求書の補正書提出(前日の大津市依頼分の対応) |
2012年1月12日 | 処分庁より弁明書提出 |
2012年1月24日 | (裁決書より)開発許可権者より開発許可を要しないとした判断理由の報告 |
2012年1月24日 | 大津市 目片市長任期満了 |
2012年1月25日 | 大津市 越市長就任 |
2012年1月25日 | 現地検証申出書、参考人陳述申立書、物件提出要求申立書、証拠説明書提出 |
2012年1月30日 | 反論書(1)提出 |
2012年2月10日 | 処分庁より反論書(1)に対する再弁明書提出 |
2012年2月10日 | 証拠説明書、公開口頭審査会の進行と現地検証実施に対する意見書提出 |
2012年2月14日 | (裁決書より)開発審査会にて、開発許可権者の判断を是とする見解が示される |
2012年2月14日 | URより地下水排水施設に関する資料提出 |
2012年2月24日 | 反論書(2)提出 |
2012年2月28日 | 処分庁より地質資料などが提出 |
2012年3月1日 | 建築審査会の公開口頭審理 |
2012年4月2日 | 処分庁提出のボーリングデータ分析結果を含む最終反論書を提出 |
2012年4月11日 | 処分庁が最終反論書に対する弁明書を提出 |
2012年4月16日 | 請求人が「早期裁決を求める意見書」を提出 |
2012年4月18日 | 建築審査会の審理開催(裁決に至らず) |
2012年5月30日 | 建築審査会での審理が結審 |
2012年6月1日 | 請求人らに裁決結果通知 |