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読売新聞 2011年5月16日(月)朝刊 「科学MONDAY」(引用)

「盛り土」地滑り 傾く家

東日本大震災で強い揺れに襲われた住宅地では、地盤が崩落する地滑り被害が多発した。
被害は宅地開発のために土砂を埋める「盛り土」で造成した区画に集中していた。
なぜ盛り土が崩落したのか。先月下旬、仙台市内の被災地を取材した。(浜中伸之、写真も)

仙台市中心部から約6キロ西の青葉区折立地区。1960年代から開発された区画の一部(約40戸)では
多くの家が傾き、滑り落ちそうになっているものもあった。

石積みの擁壁も崩壊が目立つ。道路は波打ち、マンホールが液状化で浮き上がっている。
近くの斜面からは水が流れ出ていた。

柴田益男さん(79)の木造2階建ては、宅地が約2メートルずり落ち、基礎には亀裂が5か所入った。
市から「危険」を示す赤紙が貼られ、周辺一帯は立ち入り制限を求める警戒区域にも指定されたが、
柴田さんは「慣れない避難所生活をすると体調を崩すと思う。ここで暮らすしかない」と不安そうに語った。


古い工法で多発

市によると、地滑りは谷筋を盛り土した部分で起きた。谷筋や池などが隣接する台地や丘陵地で
大規模な宅地造成をする場合、斜面を切り取った土砂を谷などに盛り土する。
切り土よりも地盤が弱いため、通常は何度も押し固めて強くしたり、石積み擁壁の後ろ側をコンクリートで
固めたりして強化する。
だが、市の担当者は「40年以上前に、現在のような工法がない中で造成された地域に被害が多かった」と話す。

一方、近年開発された宅地でも、斜面に近い場所を盛り土した箇所では、建物が斜面にずり落ちる被害が出た。
国土交通省によると、東北と関東の9県で行った宅地危険度判定(12日現在)では、4776件のうち1067件で
建物の立ち入りが「危険」、1807件で「要注意」と判定された。
仙台市のほかに、福島市でも大規模な盛り土崩落が確認されている。

仙台市の被害地域は居住者の高齢化が進んでおり、再建費用の負担が難しいため、
危険な家に住み続ける住民も多い。宮城県内の被災自治体は国に新たな助成制度を設けるよう要望している。


軟弱地盤に長い揺れ原因

現地を調査した京都大防災研究所の釜井俊賀孝教授(応用地質学)は今回の地滑りについて、
「ゆっくりと長く揺れる『長周期地震動』が原因」とみる。
短い周期で小刻みに揺れる内陸直下地震に対して、今回のような海溝型巨大地震は、数秒以上の長い周期の
地震波を強く放出する。こうした長周期地震動は軟らかい地盤や液体などを共振し、
大きく揺らす性質がある。釜井教授は「地下水がしみ込むことなどによって軟らかくなっている地盤が
長く揺れたため、強度がだんだん低下し、地滑り被害を拡大させた」と分析する。

盛り土の地滑りで自宅の擁壁が壊れた吉田ミツ子さん(73)(同市太白区緑ヶ丘)は
「5分くらい揺れを感じた。78年の宮城県沖地震以上に長く揺れていたのでは」と証言した。


国内に推定1000か所

西日本でも東海、東南海、南海地震といった巨大な海溝型地震の発生が迫っているとされており、
広い範囲で地滑りの恐れがある。沖村孝・神戸大名誉教授(地盤工学)は「東北地方だけの問題ではない。
揺れ続ける時間が長い地震が起きれば、西日本も大きなダメージを受ける」と指摘する。
平地が少ない日本では、郊外で山を削る宅地開発はどこでも行われている。

国交省は、住宅に大きな影響を及ぼす恐れのある大規模な盛り土造成地が、国内に約1000か所あると推定している。
95年の阪神大震災でも約200か所で盛り土の地滑りが起きたとされる。

沖村名誉教授は「大地震が来る前に、造成地に地下水はあるのか、水を吸収しやすい粘土質の土ではないか、
擁壁などから水が漏れ出ていないかなどを調べ、必要に応じて盛り土の耐震性を高めるべきだ」と強調する。