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朝日新聞 2011年5月1日 朝刊(引用)

盛り土宅地 地滑り集中 震災9県の950件「居住困難」

全国1000箇所に危険造成地

東日本大震災で、丘陵地の造成宅地の地滑りが、盛り土部分に集中していることが、大学や調査会社の
調べで分かった。これまでに自治体の危険度判定で、「居住困難」とされた宅地は950件。同様の危険が
ある大規模造成地は全国に1千カ所以上あると見られるが、対策が遅れている。


仙台市西部の丘に広がる住宅街。緩やかな傾斜の道路に陥没や亀裂が走り、土台から傾いた家や、
崖を支える擁壁が崩れた家が並んでいた。少し離れただけで、全く被害の目立たない宅地との差が際立っていた。

丘陵地に造成された宅地は、斜面を削った削り土部分と、土を持って平らにした盛り土部分があり、
盛り土部分や両方の境界部分の地盤が弱いことが知られている。

国土交通省のまとめでは、大震災による地盤の被害状況は、東北と関東の9県で27日までに調査された
4297件のうち950件が居住困難な「危険」、1634件が「要注意」と判定された。家の損傷が小さくても、
再び住むためにくい打ちなど地盤改修が必要な例もある。「危険」判定が614件あった仙台市の担当者は
「大半が丘陵地にあり、地滑りの被災ではないか」と見ている。

京都大の釜井俊孝教授(都市斜面工学)が調査した仙台市の12カ所と福島市内の2カ所の造成地では、
被害があったのはすべて盛り土部分の地滑りだった。盛り土と元の地面との境目が地震で弱くなり、
まとまって滑り落ちた可能性が高い、と指摘する。
東北大の森友宏助教(地盤工学)が調べた仙台市の住宅地では、4200戸のうち119戸が全半壊。
全半壊のうち43戸は盛り土に、71戸は盛り土と切り土の境界部に立っていた。切り土の宅地と比べて、
同じ広さあたりの全半壊戸数の割合は盛り土で8.6倍、境界部では63.9倍に上った。
自治体の要請を受けて調査を続けている千代田コンサルタント(東京)の調べでも、仙台市と宮城県栗原市、
岩手県一関市、奥州市の計40カ所の造成地で、地滑りや擁壁の被害は、ほぼすべてが盛り土で起こっていた。
同社の橋本隆雄さんは「境界では盛り土だけが滑って段差ができ、大きく傾いた家が目立つ」と話した。

(川原千夏子、松尾一郎)


進まぬ自治体調査


地震による造成地の被害は1978年、宮城県沖地震での仙台市での地滑りで、
盛り土の危険性が注目されるようになった。

阪神大震災でも100カ所以上で地滑りが起き、兵庫県西宮市で34人が犠牲になり、2004年の新潟県中越地震でも
長岡市の造成地2カ所で地滑りが起き65人が1年以上、避難生活を余儀なくされた。06年に宅地造成等規制法
(宅造法)が改正された。

東京電機大の安田進教授(地盤工学)は「数十年前は地震に配慮しない盛り土工事も多かった。
関東なら、川崎のように早い時期に開発が始まった大都市圏近郊の住宅地は、特に注意が必要だ」と指摘する。

国交省は阪神大震災の状況から、全国の危険で大規模な造成地を1千カ所と見積もる。盛り土部分は、
地盤が弱いうえ、元の地盤との境目に地下水が流れ、滑りやすくなるなることがある。

宅造法改正で、自治体では地滑りの恐れがある既存の造成地を「防災区域」に指定できるようになった。
危険な宅地の所有者は、国と自治体の補助を得て、補強のためのくい打ちや地下水を抜くパイプの設置など、
地盤改良に努めるように求められた。

国交省は都道府県と政令指定都市や中核市、特例市の合計147自治体に、危険な大規模造成地の調査と
防災区域の指定を求めている。

だが、自治体調査で防災区域に指定された場所はまだゼロ。昨年3月現在、調査に着手したのは147自治体のうち
28自治体で、その後もあまり増えていない。

地滑りが多発した仙台市も、予備調査の段階だった。担当者は「危険区域を割り出しても、住民に数百万円の
工事費が支払えるか、という疑問もあって進めづらかった」と話す。

早くから調査を進めてきた川崎市でさえ、07年に地図で地盤改良が必要そうな土地の調査を終えて、
現地のボーリング調査に着手した段階。住民らに地盤改修を指示すべきかどうかの判断が出来ていない。
担当者は「データから機械的に判断できる基準は示されておらず、手法の模索を続けている」と話す。

法改正の検討会にも加わった釜井さんは、土の質や元の地面の傾斜度などを調べることで「危険地域のおおまかな
予測はほぼ可能。調査地の住民との合意作りも含め、自治体は調査の作業を急いで欲しい」と話している。

(長野剛、吉田晋)


宅地造成等規制法

1961年に集中豪雨のため全国各地の造成宅地で崖崩れが多発したのを受け、62年に施行。都道府県知事などが
指定した規制区域内の宅地造成工事について、擁壁や排水設備などの基準を明確化した。2006年の改正では、
地盤改良で既存宅地の安全性も確保するため、「防災区域」の指定制度を新設。盛り土の造成地の調査事業も始まった。